一度死んだ者

ある日の朝、僕は一度死んだ。

生きる実力を失った、とも言えるだろうか。


「生きていない」僕にはもちろん形が存在していなかったようだ。誰も姿を認識してくれない。足音を持たない透明な物体はふらふらと流浪し、長い時間が過ぎた。


人はいない。道もない。歩む力すらもない。

だが、そこに非情にも姿は見えぬ感情が残り続け、苦しみを覚えさせ続けた。


そんな僕の視界に入り続けたのは「嘘」や「無」「夢幻」だけであった。


幼きある時、「天国と地獄っていうものがある。ここは死んだ後にどっちかに行くか決まる。だから良い子にしなさいよ。」と、どこかで聞いたことがある。


どうやらここは地獄だったらしい。

「何もない地獄」とでも呼んでおこうか。

何度焦ったことだろう。何度もがき苦しんだことだろう。だけど、この姿では一歩すらも進めずに地獄を進むことすらもできなかった。


このままではずっと動けないままである。頭を抱え考え続けた。


ここは死んだ時に訪れた場所だ。生きることをしなければずっと死んだままで、この世界は地獄であり続ける。


骨が折れても血を流そうとも、生きる力、生きる未来を作ることを決心した。

すると不思議なことに、「もう戻らない」と思っていた「私の足音」が帰ってきた。