一度壊れたもの

一度壊れたものは絶対に完全に元に戻らない。


あなたは一度は物を壊したことがあるだろう。

大切に使っていた物、雑に扱っていた物。様々な時間の共有を経て、その物は壊れたことだろう。


どんなに修復を試みようと、壊れる前の状態に戻ることはなく、修復歴が追加される。


では、人間はどうだろう。

怪我をすると人間は生命体としての働きから治す力がはたらく。擦りむいても骨を折っても、ある程度の怪我ならば元の状態に戻ってくれる。

なんて素晴らしい力なのだろう。(あまり怪我は負いたくはないが)


しかし、人間にも元に戻らないものがある。

それは心である。

私は一度心が壊れた人間だ。ふと世界が私を押し潰し、自らの世界でのみ生きたくなった。

その後、家族や友人など、様々な力が私を現実の世界に戻してくれたおかげでどうにか今生きている。


多くの人の力により私の心は修復されたのだが、どうしても私の心からは「壊れた」という記憶は消えないのである。


壊れた記憶とも共に生き、今何が自分を強く生きさせるかを考えながら生きてはいるのだが、確実に全ての行動があの壊れた時間と縁を持っている。


その縁は悪い方向に進むこともあるのだが、良い方向へ導いてくれることもある。


正直、私はなぜ壊れたのか、何があんな状態に追い込んだのかすら覚えてない。もしかしたら他人から見ても自分から見ても本当にしょうもない理由なのかもしれない。


ただ一つわかったことがある。心というものは一度壊れると絶対に完全に元に戻らないということだ。